不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

最近読んだ本から

 関川夏央『昭和三十年代演習』(岩波書店。思想や記憶ではなく、その時の文学や映画を通して、昭和三十年代という一時代を見る、講義録のような形式になっており、話し言葉のですます調もあってか、えらく読みやすかったし、わかりやすかった。ただ、そのぶんちょいと物足りなかったかな。著者ならではのダイナミズムが薄い。三島由紀夫松本清張の比較が興味深かった。
 中で「『ALWAYS 三丁目の夕日』には小さなウソが含まれていて、観客(あの時代を生きた人たち)はみなそれを承知の上で見ていた」と著者は言うが、いや、ウソと思わずに「あの時代はよかった」と美化している人は結構いると思うなぁ。

昭和三十年代 演習

昭和三十年代 演習

 速水健朗『1995年』(ちくま新書。こちらは95年という一年だけを切り取って書かれた時代論。たった一年とはいえ、新書の薄さではさすがに総花的になってしまい、踏み込みが甘い個所はあった。が、おぼろげな記憶の点が次々と結ばれていくのはおもしろかった。特に経済は知らんので。テクノロジーの章も興味深かった。H Jungle with tの“WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント”に「不謹慎だ」という声が上がらなかったという指摘や、ドリカムとユーミンの歌詞比較は鋭くて、おもしろかった。そして震災にオウム……やっぱり、もっともっと分厚くしたものを読んでみたい、という我が儘な感想も残しておこう。
1995年 (ちくま新書)

1995年 (ちくま新書)

 朝海陽子『sight』(赤々舍)。「六本木クロッシング」で知った人の写真集。知ったと書いたけど、この写真集自体は前から知っていて、手に取ってみたかったのだ。リビングや自室で映画を見ている人たちを撮影しているのだが(地名と映画タイトルが付記されている)、お互いの見る/見られるの視線がぶつからずにすれ違っているのがおもしろいし、私的な空間でくつろいだ表情や姿勢でも個人・作品ごとに差異があるのがいい。
sight

sight

 野田秀樹+鴻英良『野田秀樹 赤鬼の挑戦』(青土社。『赤鬼』のタイやロンドンなど海外公演についてだけの本かと思いきや、二人の対談がわりと野田秀樹のディープなところにまで踏み込んでいて、ある意味「野田秀樹の挑戦」と言える内容だった。図書館で借りたが、手元に置いて、再度じっくり読みたい。野田秀樹はこういう本をもっと出してくれないかねぇ。
野田秀樹 赤鬼の挑戦

野田秀樹 赤鬼の挑戦