不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

優しくって少しばか

 原田宗典覚醒剤大麻の所持により、覚醒剤取締法違反で逮捕された。
 宗ちゃん、やっちまったなぁ……。薬に明るいわけではないから無責任な言い方だが、大麻はまだしも覚醒剤は駄目だよ。
 大学に入学してすぐだったから、たしか1999年の事だったと思う。宗ちゃんが講演に来るというので、初めて講義を抜け出して聞きに行った。前の方の席に座ったはず。ふらふら出てきた宗ちゃんは「気分が落ち着くので」とおもむろにお香を焚き始め、さらに講演ではなく友人を連れてきてダベり出したのだった。その友人が有名だったのか無名だったのかも、何を話していたのかも忘れてしまったが、その全く覇気のない、アンニュイな空気をよく覚えている。
 原田宗典といえば「おもしろエッセイ」のイメージが強いが、俺にとってはまぎれもなく小説家だった。宗ちゃんがもっとも小説を書いていた90年代は、そのまま俺の10代で、まさに本を読み始めた時期に重なっている。特に文庫で読んでいたので、出てすぐに買って読んでいた。俺が思春期に一番共鳴したのは、他ならぬ原田宗典なのかもしれない。
 ところが不思議な事に、前述の講演後、20歳を迎えて以降はあまり読まなくなった。宗ちゃん自身も小説から遠ざかり始めた時期だったと記憶している。躁鬱病を告白した事や交通事故にあった事などは知っているが、作品には触れなかった。『通販生活』だったかのテレビCMで久し振りに見かけたのが最後だったと思う。そしてこの一報である。
 いま本棚を見ると、原田宗典の文庫本が12冊あった。小説は『優しくって少しばか』『何者でもない』『平成トム・ソーヤー』などなど。エッセイは『十七歳だった!』と『お前は世界の王様か!』の二冊だけある。後者は当時読んでいた雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載の時から愛読していて、ここから純文学を知った。
 これらを読み返す事はほとんどない。思春期に共鳴してしまったからこそ、その時にしか読めない気がするのだ。しかし、それでも買ってから5回の引っ越しのたびに、「手放そうか……いや」と結局持ち続け、気づけば棚の一番前に置いてしまっている。俺がこれを手放す時は、10代の少年少女に贈る時なのかもしれないなとふと思った。
 なんだかしんみりと思い出なんぞを書いてしまったわけだが、別に死んだわけではないし、今生の別れがあったわけではない。もちろんこれからいろいろと大変だろう。リハビリがあるし、躁鬱病だってどうなっているかわからない。今後は何かとレッテルがついて回るだろう。やり直す事はそんな簡単ではないし、離れていた俺が「がんばって」などと安易に言葉を出すのがおかしいのもわかっている。
 だけど、かつてアナタに共鳴した一読者として、我がままかもしれないけど、「待っているよ」という一言は伝えたいと思う。

優しくって少しばか (集英社文庫)

優しくって少しばか (集英社文庫)

何者でもない (講談社文庫)

何者でもない (講談社文庫)

平成トム・ソーヤー (集英社文庫)

平成トム・ソーヤー (集英社文庫)

おまえは世界の王様か! (幻冬舎文庫)

おまえは世界の王様か! (幻冬舎文庫)