不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

天才の本2冊

 ポール・ホフマン『放浪の天才数学者エルデシュ』(草思社文庫、平石律子訳)。俺は文系だが数学は結構好きで、先日の「数学はやり直してみたい」という一文もこの本を読んだのが理由の一つ。
 定住せずにスーツケーツ一つ持って世界を放浪し、一日19時間数学を考え続ける天才数学者のノンフィクション。メチャおもしろい。ハンガリーという激動の国に生まれ、その歴史に翻弄されながらも、数学への純粋な思いだけを持って態度を貫き通している姿は勇敢で、それでいて愛らしいジイさんだからたまらない。
 エルデシュ本人だけでなく、他の数学者もたくさん登場して、みないろんな意味で変人ばかりだからおもしろい。天才といえば我が強く、周りに迷惑をかける事が多い存在で、エルデシュにもその気があるものの、基本的にとてもいい人だ。早いもの勝ちの学者の発表の世界で、共同に研究したり、率先して協力者の名前を一緒に掲載したり、金に興味がなくて他人が研究をすっぱ抜いても怒らなかったりと、勝ち負けではなく知識を追求するという、「数学」に対してだけ純粋である事がすばらしい。しかも子供好き。本人の性癖などにも言及しているのはいいポイントだと思う。当然ながら数学自体にも話は及ぶが、わりとわかりやすく書かれていて誰でも楽しめるはず。草思社は地味だけど、いい本出すよな。

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)

文庫 放浪の天才数学者エルデシュ (草思社文庫)

 青柳いづみこグレン・グールド 未来のピアニスト』(筑摩書房。ステージ引退までのグールドの演奏の変遷。実演家ならではの視点だけでなく、音源や資料を丹念に読み込んでの考察は示唆に富んでいて、冷静かつ厳しい意見もあったのがよかった。音楽についても理論に走らず、結構わかりやすかった。が、やっぱり音源聞いてみないと理解しきれないところもあるよな。というわけで、グールド愛好家にいただいた10数枚のグールドを聞いてみよう。
グレン・グールド―未来のピアニスト

グレン・グールド―未来のピアニスト

 グールドは以前から知っていたが、エルデシュは先日発売された吉野朔実『悪魔が本とやってくる』(本の雑誌社で知った。この吉野朔実劇場シリーズはとても好きなのだが、何故だか本書はこれまでに比べてイマイチに思えてしまった。何が違うというわけでもないのだが。つまらないわけでなく、実際にエルデシュのようにこの本で知って読もうと思った本があるのに。まぁ、また違うタイミングで読んだら違った感想を持つだろう。