フランク・ブレイディー『完全なるチェス 天才ボビー・フィッシャーの生涯』(文藝春秋、佐藤耕士訳)。俺は映画『ボビー・フィッシャーを探して』で彼を知った口で、すごい人だったくらいしかわかっていなかったのだが、いやはや、いろんな意味でとんでもないお人である。「才能に惚れ込んだら、人格には惚れるな」という言葉を思い出した。
これは希代の天才チェスプレイヤーの評伝であり、かつ頭のおかしな男の評伝でもある。前後半でこれほど内容が変わる伝記もあまりなかろうて。なにせ中盤以降はチェスそのものが出てこなくなるのだから。出てくるのは逃避行と各地で起こしたトラブルである。卓越した知性、才能を持ちながら、もとい持っているが故に破滅していく様は、まさに天才の人生そのものである。とはいえ、どこで軌道修正すればよかったのかわからない。むしろ時代が彼をそうさせた、と言ってしまうのは乱暴すぎるだろうか。なんにせよ、天才とは本当に皮肉な存在である。
取材と資料読み込みをたっぷり行い、読み応え十分。チェスを知らなくてもおもしろく、著者も棋譜(ではなくチェス譜?)を載せずに、素人でも手に取りやすいように配慮したらしい。日本語版の解説は羽生善治なのだが、文章から妙に冷徹な視線を感じて、この人の奥の深さを想像して怖くなった。
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