ヴィーナス タンゴ ステップを

　The Birthday『VISION』。前作でストレートで乾いたロックンロールを聞かせてくれた新生バンド体制。今作はその先へ行くのかなと期待していたのが、ちょっとそれとは違う方向の音になっていた。あえて言うなら旧The Birthdayの音や楽曲を現体制でやるとこうなるという現れか。それでも長尺な曲は少なく、ソリッドな音は健在なままで、ある意味でこれまでのThe Birthdayを飲み込んで新たな血と肉にしたかのようだ。
　先行シングル2曲のキャッチーさもあって、一聴、二聴と聞くほどに味がよくなっていくのは確かだが、一方で、正直言ってまだ楽曲の練りが足りないと思う。バンドが音ではなく言葉に引っ張られていると言えばよいのか、もう少し音に寄り添ってもいい。特にベースが弱い。精進していただきたい。チバユウスケの歌詞は最近はストレートになりすぎる傾向があるが、やっぱり好きだな。まぁラストの曲の《TOGETHER FOREVER》という歌詞はちょっとどうかと思ったけれど。
　名盤とか力作とかは言えないけれど、時折り見たこともない彼方の地平や空に手を伸ばすかのような伸びやかな音と声が不意に響いてきて、この期に及んでこういう場所に連れて行ってくれるのかと戸惑う事もあったよ。
　付属のDVDにはライブの模様が何曲か収録されているのはうれしいけど、音質が最悪。ボーナス扱いではあるものの、ちとひどい。やっぱり一度はライブに行きたいなと年末のライブの先行抽選に応募したら、当選してしまった。あの解散ライブ以来。ロックンロールは続いているか。
《自由の真ん中はいつも　見えないままわからない
　全ては粉々になって　まばゆい光放った
　いっそのことそれでも　いいかもなってお前も
　ちょっとは思っただろ　誰かのことを忘れて》（“ROKA”）

VISION(初回限定盤)(DVD付)