不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

前を向け、どこにいても

 新宿ピカデリーで見たのだが、これはBunkamuraル・シネマで見るべき映画だったかも。
 ミッドナイト・イン・パリ』(監督・脚本/ウディ・アレン、出演/オーウェン・ウィルソンレイチェル・マクアダムスマリオン・コティヤールキャシー・ベイツエイドリアン・ブロディ

「パリの夜は不思議な事が起こるのだよ」とひと言であっさり説明を終わらせるかの如く、タイムスリップについての説明が一切ないのがアレンらしい。1920年代の偉大な作家や芸術家が目の前にいるという夜の出来事は、ほとんどが出オチであまり笑えるものではなかったけれど、新しい人物に出会うたびにオーウェン・ウィルソンの顔芸が炸裂し、チャーミングでこちらは毎回笑えた。未来の人だけが知っている事柄から始まるてんやわんやがあると思っていたが、意外にもそういうネタはなく、だからこそあの監督への助言は浮いていたが、あれにも意味があったのかな。
 開始早々、パリを紹介するシーンが続き、美しく見ごたえはあるものの結構な長さで、そのわざとらしさに笑いそうになってしまったが、これら観光案内的なショットの数々がこれから起こる真夜中の不思議につながっていくのである。
 ギル(オーウェン・ウィルソン)が真夜中に出会う憧れの人々は、みな彼のイメージ通りであって、人間というよりキャラクターっぽい。また彼の小説もトントン拍子で評価されようとしている。1920年代のパリはギルの憧れた姿そのもので、そこにいる芸術家も魅力的で、決して裏切る事はない。夢に夢見て夢に生き――。では、この時代で生き続けるのかというと、いや、僕たちが生きているのは現在でしかないのだとギルははたと気づくのだった。そのキッカケがとてもささやかな日常の事柄なのがまたいい。
 どちらを選ぶにしろ、「さよなら」という淋しさも哀しさも、非難も憐憫も、愛情さえもはさまない決別の一言が、それぞれのリスタートの合図であって、自分たちが決意して選んだ場所でファイティングポーズをとる姿には拍手をしたくなった。いつだって過去は甘美で、現在は過酷だ。どの時代にいようと生きているのは「今」でしかなく、重要なのは過去の幻想を振り払い、戦う精神を持つことに他ならない。タランティーノが2011年のベストの作品として本作を上げたのも*1、おそらくは過去を愛しながら現在で戦い続ける己のファイティングスピリッツに共鳴したからだと思う。
 これまでシニカルに構えてきたウディ・アレンが、下の世代へ叱咤激励を送るかのような一作。とはいえ、アレンもまだまだ枯れていないようだけどね。