不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ところで弦理論ってなに?

 今年初の映画は『人生万歳!』。監督・脚本、ウディ・アレン。出演、ラリー・デヴィッド、エヴァン・レイチェル・ウッド。劇場では久方ぶりのウディ・アレンである。

 冒頭、オッサン(というかジイサン)4人のカフェでのおしゃべりから始まって、まぁいつものウディ・アレンっぽいなと思っていたら、中の一人が突然カメラに向かって、つまり観客に話しかけだした。静かな怒りに満ちたその怒濤のしゃべくりは、神経質で、皮肉にまみれ、へ理屈一歩手前か、一歩先かのような独自の論で、思わずにやにやしてしまうと同時に、これはどういう映画なのかと少し迷ってしまった。
 物理学でノーベル賞候補になった、厭世的で皮肉屋でパニック症候群を持つ主人公ポリスの元に、家出娘メロディが押し掛けてくる。ボリスはいやいやながらもメロディと同居し始め、いつの間にかお互い惹かれあい、ついには結婚。その過程でボリスはメロディにいろいろと教えこみ、メロディはすてきな女性へと育っていく……この構図は、ご存知『マイ・フェア・レディ』と同じではあるが、「すてきな女性」というよりも「偏った知識の不思議な女性」だし、周囲が変人ばかりで、その展開がまたおかしなものばかりで、単なるロマンティックコメディではなくしている。そこかしこにある皮肉で辛辣なユーモアがまたおかしく笑ってしまうのだった。
 ボリスを演じたのはラリー・デヴィッドで、気難しい皮肉屋を好演していて文句はないのだが、やはりこういう役柄となるとウディ・アレン自身に演じて欲しかったなとすなおに思ってしまう。どもりながら、一所懸命しゃべる小柄なオッサンに胸キュンしたい(したいのか?)。が、いま思えばラリー・デヴィッドだったからこそ、カラッとした笑いになったのかもしれない。アレンがいきなり窓から自殺を計ったら、なんだか笑えない。
 物語は安直だし、メリハリがなくて平坦な印象を受けてしまったが、有無を言わせない独特の速いテンポで、スコーンと駆け抜けて行くのはなかなか爽快。しかも、最後までボリスは観客に話しかけ、観客も登場人物も煙に巻き続け、おかしな肩透かしをさせる。結局のところ、一番意地が悪いのは監督なのだとよくわかった。
 ウディ・アレンの映画、特にここ10年の作品は、凝った構成にはせず、シンプルに一つのアイデアやテーマを軽やかに仕上げてくるものが多い。であるがゆえに、時折、浅さを感じたり、「おいおい」と思ってしまう事もあったのだが、ユーモアセンス、軽妙洒脱さはやはり天下一品で、75歳、40作目にしていまだこんな挑発的な作品を作れるのだから、やはりタダものではないおじいちゃんである。特に今作は「Whatever Works」(原題:何でもあり!)というタイトルの映画なだけに、何を言っても「いいじゃん、なんでもありよ!」と笑われそうなので、深く考えないのがいいのかも。
 とにかく、チャーミングで、ハッピーな作品だった。年末年始に見るに最適な作品。これが恵比寿ガーデンシネマで見る最後のウディ・アレン作品と思うと、淋しくはなったけれども。