不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ゆるい幸せがだらっと

 ASIAN KUNG-FU GENERATION『マジックディスク』を聞いた。通算6枚目のオリジナルアルバムは真摯に時代と向き合った野心作であり、自信作。
 音の面で言えば、複雑なビートをむりやり詰め込み、これまでとこれからを予感させてわくわくする。明るすぎず、暗すぎず、曇天模様なのにカラフルなメロディ。
 注目すべきは歌詞、言葉だろう。2010年に作られた事、奏でる事、聞かせる事、聞く事をはっきりと意識し、明確な言葉で描こうとしている。ゼロ年代テン年代の境目に出るべくして出た一枚と言える。
 正直言えば、もうスレてしまっている俺はこれらの言葉がナイーブすぎると思うし、ストレートすぎて陳腐にも聞こえがちな表現も多い。そこで覚えた違和感によって、少し距離を感じてしまう事もあるけれど、嘘や偽りは一つもない「僕たちの言葉」の響きは、まぎれもない「希望」と言える。
 個人的にアジカン屈指の名曲だと思う前々作『ファンクラブ』の一曲目“暗号のワルツ”のアンサーソングのような“新世紀のラブソング”から始まり、“さよならロストジェネレイション”を通過し、“迷子犬と雨のビート”に乗って、“ラストダンスは悲しみを乗せて”「アイ・ラヴ・ユー」を繰り返し、“マイクロフォン”で声を拾い、“イエス”と力強く返事をして、悲しみと喜びが混ざり合う“橙”へ。
 時代や理想、カタルシスを希求し、辿り着いた場所。彼らが掲げているのは「希望」。ただ、それと共に、エキストラ・トラックとして静かに始まる“ソラニン”で歌われる穏やかな不安も携えられている。
 俺は、“ソラニン”があくまで本編ではなくエクストラ・トラックで収録された事、そしてまたエクストラ・トラックという形にしても収録された事が、実はもっともASIAN KUNG-FU GENERATIONの覚悟を表しているんじゃないかと思うのだ。
《あの日 君が心の奥底を静かに飲みこんでいれば
 誰も傷つかずに丸く収まったかな
 ボロボロになっても僕らは懲りずに恋をして
 生活は続く 生活は続く》(“新世紀のラブソング”)

マジックディスク【初回生産限定盤】

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