不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

渇望の大地


 『あの日、欲望の大地で』を見た。監督・脚本、ギジェルモ・アリアガ。出演、シャーリーズ・セロンキム・ベイシンガージェニファー・ローレンス、ジョン・コーベット、ヨアキム・デ・アルメイダ、ダニー・ピノ、ホセ・マリア・ヤスピク、J・D・パルド、ブレット・カレン、テッサ・イア。
 ギジェルモ・アリアガ渾身の初監督作。おそらく思い通り撮れたのであろう、映画の熱量がハンパない。『バベル』『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』と同じく、緻密な構成には唸ってしまう。現在のパートがやや弱く、安易に事が進んだように見えたが、アリアガ特有の時間と空間を前後させ、間断なくラストへ向けてうねっていく物語に、すっかり魅せられてしまう。
 テーマはこれまでと同じ「逃避と回帰」。そこに「女性性」を取り入れ、愛を基軸に展開していく。常に何かを欲する女性たち。愛や性欲を追い求め、獲得し、飲み込んでもなお求めていく。
 そうやって欲望を追っていくうちに、何もかもを失う。信頼や安定や幸せを。そう、彼女たちにとって愛と幸せは決してイコールではないのだ。
 微かに幸福へ一歩進んだかのように見えるものの、彼女の後姿には躊躇と後悔が見えた。幸せになって欲しい、と思うと同時に、永遠に彷徨い続けるのでは、とも強く思った。
 主演のシャーリーズ・セロンはわずかに崩れた美貌と身体が、逆に官能的でたまらない。キム・ベイシンガーの熟れた魅力や、ジェニファー・ローレンスの瑞々しい美しさもすばらしかった。彼女たちは、どんな状況であれ、もっとも美しい瞬間を体現しているようだった。
 「愛」が主軸なので、如何とも心に響いてはこなかったのだが、映画の作りはお見事。予定調和的な展開だし、中盤は説明がくどい。もっともその説明も映像で表現していたので、魅せられるし、その説明があるからこそ終盤の心象風景が俄然力を帯びてきたわけだが。
 と、完璧と言っていい仕上がりだったが、一点だけ、だが重大な問題点がある。前からアリアガは頭で作っているなと思ったが、それは今作も変わらず。自傷、傷跡というモチーフを効果的に使っていたが、それでも身体性が弱い。
 その身体性の弱さが出たのが、彼女の、あの行動だ。あれが事故だったのならば、その後の行動も、彼への独白も、「回帰」も、全く意味が変わっていく。そして変わったのならば、違う描き方をすべきではないだろうか。
 ぼかしぼかしで、わけがわからないだろうが、それを書くわけにもいかないので、ぜひ見ていただきたい。正直なところ、彼女が「お願い……」と呟いた瞬間、この映画の根っこがなくなった気がしたくらいだ。
 すばらしい映画、と言えるが、完成されているからこそ一点が致命的に思えた。