黒澤明の名前に惹かれて小林信彦『黒澤明という時代』を読んだが、小林信彦が好きではない俺が読むべきではなかった。
出だし好調、テンポも悪くなかったのだが、読み進んでいくと中身が薄すぎる。取材をせず、参考文献も堀川弘通『評伝・黒澤明』を重視し、噂話や諸説は排除し、あくまで自分の思い出から黒澤作品を見る。そういったルールを作るのは構わない。しかし、何の刺激もない。
「黒澤明」の分析も、自身の「思い出」も中途半端。分析は、いい切れ味なのに踏み込まないから、深みが足りない。コメディアンに眼がいっているのは、さすが。『天国と地獄』を褒めちぎっているけど、前は批判的じゃなかったっけ? 中盤以降、大人になってからの作品については、まだおもしろかった。中でも最終章が読ませる内容だった。しかし、結局何が書きたかったのか、よくわからん。黒澤論? 思い出? 自分の残り時間を考えるなら、もっとちゃんと書けばいいのに。
たぶん、連載中だったら楽しめた気がする。一冊にまとまって、逆に弱くなってしまった。この本を読み、気になる黒澤映画を見ようという気持ちにはなったが、「黒澤本」としては堀川弘通、橋本忍、西村雄一郎の方が数十倍おもしろい。やっぱり小林信彦、合わないなー。
- 作者: 小林信彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2009/09/11
- メディア: 単行本
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