トム・ロブ スミス『チャイルド44』上下巻を読んだ。傑作とは言わんが、なかなかおもしろい。
児童連続猟奇殺人事件が主なる事件だが、テーマとしては別。ソ連と社会主義体制とは、どんな体制だったのか。そして、国家と個人の違いとは。
上巻では、ミステリー要素はいくつかの伏線と思しきものがあるだけで、ほとんど社会主義体制下のソ連という国を描いている。常に疑心暗鬼、全てを疑い、何を信じたらいいのか。騙し合い、殺し合い、密告し合い。誇張があるだろうけど、ろくなもんじゃないな、社会主義。息が詰まるような日常の描写と、主人公レオがエリート街道から転げ落ち、どんどん追い込まれていく姿を見て、「もういいよー」と思ってしまった。
が、下巻になるや、上巻で丁寧に築き上げた世界構造を踏み台にして一気に駆け抜けていく。絶望は常に隣にあり、一歩間違えれば死。ギリギリの線を交わしながら、なんとか前進。うーん、スリリング。
ただ、クライマックスはイマイチ。ここまで築き上げたのならば、もっと濃厚に描いてもよかったのだが、やや希薄。そのため、犯人の動機が納得しかねるものだった。惜しい。社会主義体制や、「理想の国」の本質、一人ひとりの人間の心の肯定などが大きなテーマなので、そのぶん「味わい」はなかったかな。まぁ、全部描くのは無理だし、これがデビュー作らしいので次に期待。
個人的に、文字が大きめでパラパラ見えて、読んでいて落ち着かなかった。あと、田口俊樹の訳、特に会話が、ローレンス・ブロックの作品に比べて妙にガコガコしていた気がした。
リドリー・スコットはどう料理するのか。ちょっと楽しみ。
- 作者: トム・ロブスミス,Tom Rob Smith,田口俊樹
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