不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

たった一日のお話


 『天使と悪魔』鑑賞。監督、ロン・ハワード。原作・製作総指揮、ダン・ブラウン。出演、トム・ハンクスユアン・マクレガーアイェレット・ゾラーステラン・スカルスガルド、コジモ・ファスコ、アーミン・ミューラー=スタール、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ。
 いきなり書いてしまえば、歴史ミステリーと言っても「歴史」も「ミステリー」も言うほどない。特に「ミステリー」は単純で強引。わざわざ古文書保管庫なんぞに行かなくても、思いつくのでは。それにパートナーとなる女性は物理学者(だっけ?)のわりには、歴史や宗教について詳しすぎ。存在感も薄いし。
 と、破天荒で、拍子抜けではあるものの、まぁそれはそれで退屈はせずに十分楽しめた。
 冒頭、教皇の死と「反物質」実験が描かれたところで、何となく筋が見えてくる。要は宗教と科学の対立の話。『天使と悪魔』という二元論的なタイトルからして、それはうかがい知れる。先日知ったのだが、ロン・ハワードは人物の「対照」的に描く監督なので、この繋がりはおもしろい。狙っていたのだろうか。
 神を信じる宗教と物事を解明してしまう科学は、果たして分かり合えるのか。主人公ラングトン教授の受け答えや、服の着替えなどがその答えとなるのかもしれない。逆に見ればすぐに犯人がわかってくる。それでも「あれ、こいつも怪しいな」「あいつ、もしかして」と思わせる展開もあって、ドキドキした。
 ただ、次期教皇有力候補を4人も誘拐して、計画通りに殺していく。しかも警察の眼をかいくぐり、公衆の面前での公開処刑。あまりにも手際が良すぎる。と同時に雑で危険すぎる。それに資金をはじめ車、銃、爆薬などの用意や後始末のつけ方はどうしたのだろうと、疑問が多い。その辺は丸括弧にくるんで見るしかないかもしれない。
 おもしろかったのは、やはり「キリスト教」という存在だ。教皇を決める行方が10億人に影響するというのはただ事ではない。同時にその教えや信仰心もかかわってくる。おそらく、ほとんどの日本人には「すごいなぁ」という感想以外は抱けないだろう。なんせ「コンクラーベ」を「根比べ」と言葉遊びするような日本人だ。そういえば、結果を待つ広場で中継する諸外国のメディアの中には、日本はなかった。あっても小規模だろう。
 それにしても、果たしてヴァチカン内部があんなに甘いものか。宗教者とはいえ海千山千の、それこそ10億人を束ねるような連中だ。言い方はあれだが、世界最大の官僚組織とも言えるはず。純粋な宗教心を持つナイーブな宗教者が、あれほどかき乱すことができるのだろうか。純粋だけでは生き残れないと思うのだが。
 むろん、ナイーブだからこそ、ああいう犯行になったわけだし、結末もなるほどと思ったわけだが。誰がもっとも純粋な宗教者で、信仰心を持っていたかとなると、間違いなく「彼」なのである。それでも、塩野七生が「辺境にあるからこそ、純粋培養された」と言われるほどの日本のキリスト教徒だったら、もっともっとロマンチックになるのだろう。
 気に入ったのは、コンクラーベに集まる枢機卿達がバスからぞろぞろ降りてきて、待ち時間にぷかぷか煙草を吸っている場面。現実と虚構の境目にいる姿で、くすくす笑えた。