不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

透明な探偵

 ロス・マクドナルド『ウィチャリー家の女』を読んだ。初めてのリュウ・アーチャー。アメリカ上流階級の一家の娘が行方不明になったので探してくれと依頼されたところから事件は始まる。「何かを探しに行き、見つけた時にはその何かは変わってしまっていた」というハードボイルドの王道そのもの。古典作品だから当たり前かもしれんが。少しずつ霧が晴れていくように展開していき、残ったのは苦い現実だった。これがアメリカの家庭の悲劇を描いているのかどうかは、ちょっと見えなかった。昔と今の違いもあるし。
 主人公リュウ・アーチャーの影が薄い。黒子に近いのだ。もしかしたら、アーチャーがいなくても、この事件は表に出てきて解決されたようにすら思える。透明な存在として事件を見つめ、透明だからこそ最後の最後で心の中で呟く一言が、切なく響く。そしてその一言は、ロス・マクドナルド自身の呟きにも読めたが、どうなんだろう。この一作ではその辺はわからない。