不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

談志の言葉と談春の青春

 立川談春『赤めだか』読了。「修羅場後の楽しみ」だったが、あっという間に読み終えてしまうほどおもしろかった。
 笑えて、じんと来て、心に響く。芸人とは、かくも凄まじいものなのか。
 立川談春の青春記であると同時に、立川談志という芸人を描いている。ここまで文章として再現できたのは、談春の才能だろう。高田文夫のセリフなんか、完璧に高田調だ。
 言葉がいきいきしており、表現がみずみずしい。読んでいて気持ちが良くなる。
 そして、やっぱり、なんといっても、立川談志という芸人の凄さよ。全身全霊で芸にかける姿、一所懸命人を育てる姿、震えるほどかっこよく、凄まじい。ある程度の誇張はあるかもしれんが、嘘はないと思う。
 談志と古今亭志ん朝は好敵手だったわけだが、落語家としてはともかく、「師匠」という点においては、弟子を見る限り、談志が上だろう。その理由は、この本を読めばよくわかる。そのへんのビジネス書、部下育成本なんかより、100倍くらいためになる。
 談志の言葉一つひとつ含蓄深く、引用したいものばかりだった。たとえばこんな言葉。

「型ができてない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになる。どうだ、わかるか? 難しすぎるか。結論を云えば型をつくるには稽古しかないんだ。(略)いいか、俺はお前を否定しているわけではない。進歩は認めてやる。進歩しているからこそ、チェックするポイントが増えるんだ。もう一度覚えなおしてこい」

 そして、またこんな言葉。

「己が努力、行動を起こさずに対象となる人間の弱みを口であげつらって、自分のレベルまで下げる行為、これを嫉妬と云うんです。(略)だがそんなことで状況は何も変わらない。よく覚えとけ。現実は正解なんだ。時代が悪いの、世の中がおかしいと云ったところで仕方ない。現実は事実だ。そして現状を理解、分析してみろ。そこにはきっと、何故そうなったかという原因があるんだ。現状を認識して把握したら処理すりゃいいんだ。その行動を起こせない奴を俺の基準で馬鹿と云う」

 青春記としては、やや尻切れトンボで不完全ではあるが、最後の章「誰も知らない小さんと談志」は、本当に胸が震えた。読み進めていった最後の談志の言葉に、涙が出そうになった。
 絶品。チクショウ、参ったぜ。

赤めだか

赤めだか