不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

東京人の歳月

 矢野誠一戸板康二の歳月』読了。最初は遅々と読み進まなかったが、中盤過ぎから遅いままだが、惹きこまれていった。平坦に、淡々と書いているように読めたが、だからこそ《いよいよ戸板康二の大患について書かねばならない》と深刻な話になった時の感情のゆれがよくわかった。
 戸板康二という人物の評伝でありながら、東京人の気質、歌舞伎、俳句など通で粋な文化の誘いにもなっている。
 興味深かったのは福田恆存の確執。俺は坪内祐三を通しての福田恆存しか知らなかったので、戸板康二(というより矢野誠一か)から見た福田恆存の、粘着質で、嫉妬深い、いや〜な姿がおもしろかった。こうも違うものなのか。どちらも福田恆存なのだろう。
 そして、やっぱり戸板康二が読みたくなった。まずは『団十郎切腹事件』かな。

 夏目漱石こゝろ』の書き出しを気取るなら、「私は其人を常に先生と呼んでゐた」ということになる。

戸板康二の歳月 (ちくま文庫)

戸板康二の歳月 (ちくま文庫)