『おくりびと』鑑賞。監督、滝田洋二郎。脚本、小山薫堂。音楽、久石譲。出演、本木雅弘、広末涼子、山崎努、余貴美子、杉本哲太、吉行和子、笹野高史、峰岸徹、山田辰夫。
ひょんな事から納棺師になった男の物語。「死」と死体に振り回される前半のコメディ部分は、とてもおもしろい。笑いは不謹慎なほどおもしろいものだが、ギリギリ下品にならないバランスがいい。中盤から夫婦、親子、職業についてなど真面目な路線になり、若干間延び気味で、「泣かせましょう」という展開も、ちと鼻についたが、起承転結がはっきりあって、とても巧い映画だった。
俳優陣は、好演技ばかり。本木雅弘はいい俳優になったとは思っていたが、改めて見ると身体だけでなく、視線で演技できるようになっていて、これほどどは。外でチェロを弾くシーンには失笑したが。笹野高史、吉行和子の存在感もいい。会社同僚の余貴美子の妙な色気もいい味になっていた。
個人的には山崎努がすばらしかった。緩急のつけ方、間の取り方と絶品。
この中でさてどうだろう、と不安材料だった広末涼子。ずいぶん演技できるようになったけど、笑顔、しゃべり方、しぐさ、どれもアイドル的な記号ばかりで、やはり鼻につく。どしたもんかね。
死体をキレイにし、あの世へお送りする。感情を排せば無駄とも思える儀式だが、この儀式があるから残された人間は、死を初めて感じられるのかもしれない。調べたわけではないが、日本特有の儀式であり感情で、だからこそモントリオール国際映画祭グランプリを獲得したのだろう。
納棺師という立場から、「死」を時にユニークに、時にシリアスに描いているが、なぜか最後は父子のお涙頂戴もの。それはそれで伏線のあるよくできたドラマなのだが、「死」を描くところから外れてしまい、だいぶひいてしまった。
最後のエピソードこそどっちらけだったが、全体としては高水準のいい作品で、様々な要素のバランスも絶妙だった。喜怒哀楽、四季の移り変わり、不幸と幸せ、生と死。
だが、何故かいまいちスッキリしない。俺は自身の経験を思い出し、涙ぐんでしまったが、あまり経験のない人間がこれを見て泣くというのは、なんか違うような気がする。その涙は、何の涙なんだろう。完成度でいえば先日の『アキレスと亀』よりも高いのだが、『アキレスと亀』の方が映画としては上なのだ。*1
このテーマ、この題材ならば、もっと「死」や「弔い」「忌み」を掘り下げる事ができるはず。ここが脚本を書いた小山薫堂の限界か。うがった見方をすれば、わかりやすい展開(ひょんな事から稀有な仕事につき、一度は友人、妻に拒否されるが、最後は理解され、全ての問題が解消される)、バランスの良さ、納棺師というマイナーな職業が主人公など、放送作家ならではの映画と言えるかも。
描かれている事以上のものは何一つ伝わってこず、また感じさせる事もなく、カタルシスがない。
エグいものや、哲学的な示唆を期待したわけではない。もしかしたら、ある種の通過儀礼としての映画なのかもしれない。一時、通り過ぎればいい。全てがほどよいバランスで成り立っているのが人生なのかもしれない。
それでも、と。あと一歩が欲しかった。*2
満足な作品だが、それだけに残念だった。