不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

帝国ホテルが好き

 スティーヴン・ミルハウザー『マーティン・ドレスラーの夢』読了。初のミルハウザー
 葉巻屋の息子が立身出世、ホテル王となり巨大ホテル建設まで突き進む、いわゆる「アメリカン・ドリーム」な物語。何もかもがうまくいくので「おいおいおい」とちょっと思ってしまったが、描かれているのは20世紀初頭のアメリカだ。全てのものがどんどん成長していった時代で、ぐいぐい上がっていく“時代の気配”を、感じた。
 主人公マーティン・ドレスラーの視点なので、破竹の勢いを自らの体験のように読める。
 終盤、世界から、また己の夢から滑り落ちていくマーティン。だが、不思議と痛々しくはない。
 彼は常に何かを求めていた。自ら手にしたものを棄て、新たなものを手にする事に夢中になっていた。前へ先へと行こうとしていた。ずっと抱えていた周囲や、住んでいる世界とのズレを、己の夢から滑り落ちる事で、初めて埋まったのかもしれない。
 「ホテル」とは何なのか。「建築物」とは、「街」「都市」とは。古いものから新しいものへ、その変化による周囲の構造変化。ホテルの描写が詳細で、どこかにあるような気になる。まぁ有り得ない構造だが。
 3人の女の存在もおもしろい。結婚相手、仕事のパートナー。
 盛り上がりという盛り上がりもなく、気づいたら、もう終盤だった。おもしろい小説を読んでいる時の高揚感は、ほとんどなかった。だけど、読んでいる時はぐぐぐっと「マーティン・ドレスラーの夢」に入り込んでいた。「マーティン・ドレスラーの夢」の夢の中を泳ぐ。
 現実と幻想の狭間。現実と夢の境目。
 不思議な小説だった。

マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス)

マーティン・ドレスラーの夢 (白水Uブックス)