奥田英朗『泳いで帰れ』読了。伊良部シリーズ以外読んだ事がなかったが、エッセイもめちゃくちゃおもしろい。
スポーツに詳しくない出不精の著者が、酒の席で不用意に言った一言をきっかけに、アテネくんだりまで行って五輪観戦。初めて見る競技やギリシャの風景、食べ物、人間たち、さらに世界中から集まってくる人々について、「酔っぱらったオヤジ」の戯言を軽妙に描く。「酔っぱらい」といっても、こんなの小気味いい人はいないだろうが。
タイトルの「泳いで帰れ」は長嶋ジャパンに対しての言葉。銅メダルという結果に怒っているのではない。その戦いっぷり、闘志なき姿に怒っているのだ。その怒りっぷりは凄まじいのだが、怒っていたのがたった一人だけというのがなんだか笑える。
選手や監督、采配をなじっているが、不快感はない。どこからか借りてきたような考えではなく、自らの45年の野球ファン人生からにじみ出る考えだったからだろう。
スポーツライターの書く文章はあまり好きではない。『Number』によくある、選手の内面に寄り添ったつもりになっている酔った文章が多いからだ。普通の新聞でさえもそんな文章になりがち。*1そんな中で、本書は本当の意味で「作家の観戦記」だった。連載していた『小説宝石』には悪いが、こういうのを文芸誌ではなくスポーツ誌や新聞は掲載すべきだ。
さて、奥田英朗は北京五輪をどう見たのか気になる。なんせ、星野ジャパンはあの様だったんだから、「泳いで帰れ」どころじゃないだろう。
- 作者: 奥田英朗
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/07/10
- メディア: 文庫
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