不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

カリスマとはこういう男の事を言うのだよ

 WWE ザ・ロックを見る。副題は「The Most Electrifying Man in Sports Ent」(スポーツエンタテインメント界でもっともシビレる男)。この言葉に、偽りなしッ!
 インタビューを交えたドキュメンタリータッチの内容だと思っていたが、試合などストーリーラインを紹介するような内容で、はっきり言えば上っ面だけであり、肩透かしだった。がっくし。ロック様が協力してくれなかったのだろうか。そのうち、関係者や各レスラー、そして本人のインタビューなどを交えたものも出していただきたい。出せ。
 肩透かしではあったが、それはそれで楽しめるのも確かである。3枚目におさめられた数々のマイクパフォーマンスは最高すぎる。
 もっさりとした、味のりが乗っているような髪型のデビュー時代は見ていて痛々しいくらいだ。身体も不自然にビルドアップされており、動きもとろい。よくこの青年に、デビュー三ヶ月でIC王座を与えたもんだ。まぁ相手をしたHHHもまだ貴族時代で、笑えるのだが。この二人が団体を背負うカリスマに成長すると、誰が想像できるだろうか。
 常に「ロッキー、サックス!(最低)」と叫ばれていたもっさい青年が、どんどん饒舌になり、身体つきがすっきりし、精悍な顔つきとなり、眉毛を上げ、すさまじいカリスマ性を身につけ、気づけば大声援しか聞こえないレスラー、ザ・ロックへとなる過程は、駆け足過ぎて拍子抜けだが、非常に興味深い。
 ぼんやり思うのは、やはり「場」である。ロックがここまでカリスマ性を身につける事ができたのは、本人の努力と才能もさることながら、「WWF」(当時)だったからだ。ビンス、HHH、オーエン・ハート、マンカインド、ストーンコールド・スティーヴ・オースチン……相乗効果とはまさにこの事。こうやってスターを生み続けるWWFって、凄いね。
 試合ごとに感想書くのもアレなんで省略するが、一つ一つにドラマ性があって、おもしろい。だけど、当たり前だけど毎回メイン級ばかりだとゲップが出るな。
 ご存じの方ばかりだと思うが、いまやザ・ロックはプロレス界から身を引き、ハリウッドで活躍している。主役を何度もはり、興行的に成功した作品もある(ひどいのもある)。次回作はスパイ・コメディ。映画での成功は喜ばしい事だけど、やはりプロレスに戻ってほしいと願っている。
 しかし、このDVDにも収められている、伝説のレッスルマニア18、vsハルク・ホーガンを見ると、もはやザ・ロックがプロレス界で成し遂げる事はなくなったと思わないでもない。
 日本のプロレスは、リアルとフェイクが入り混じっているが、WWEはリアルをフェイクで上塗りしている。フェイクだからこそエンターテインメントとして成熟した。
 たとえばレッスルマニア19でのクリス・ジェリコvsショーン・マイケルズ。リアルでは、Y2JHBKに憧れてプロレスを始めたくらい尊敬している。しかし、フェイク上ではジェリコはヒールである。だから、「憧れていたけど、お前を潰す」という構図ができる。試合は神試合とまで言われる内容。結局、HBKが丸めこんで勝つのだが、試合後、ジェリコが泣きそうな顔でHBKと握手をする。リアルが上塗りしたフェイクを超える。ところが、次にはジェリコローブローをしてHBKを苦しめる。再びフェイクが上塗りして、物語は続く。他にもHBKvsリック・フレアーなどでも、同じようなリアルとフェイクの逆転現象が起きている。ここがWWEのおもしろさであり、真骨頂と言える。
 話を戻して、ロックvsホーガンだ。
 この試合は、ロックがヘビーフェイスで、nWoのホーガンがヒールの構図だった。しかし、入場からその構図に解れが現れ、試合が始まる頃には完全に逆転したのだ。ホーガンという存在のおもしろさと、カナダというちょっと不思議な土地柄のせいである。
 つかむ事ができない変な空気。最初は戸惑っていた両者だが、さすがカリスマ、自分の求められている役割をすかさず把握し、ロックは見事なヒールと化す。
 しかし、この瞬間、フェイクが崩れた。とはいえリアルでもない。
 試合終盤、ホーガンの必殺「アンドレを沈めたあの一撃」(byJR)レッグドロップが放たれるが、ロックは返す! 
 もう一度狙うホーガン、かわすロック。
 すかさずロックボトム! 立ち上がり、二発目のロックボトム!
 そこで終わらせない。
 ロックが跳ね上がる! 横たわるホーガンの頭の部分に立つ。
 そう、あの技だ! ピープルズ・エルボー! ヒールとなったはずのロックに大声援!
 ワン、ツー、スリー! 決まったその場に、もはやベビーフェイスもヒールもない。
 握手を求めるホーガン。遺恨を消して応じるロック。
 妙な祝祭空間が出来上がったところに、nWoが裏切った(と見られる)ホーガンを襲う。ロックが救出し、ロックとホーガンに友情が芽生える。お決まりのハルカマニア・パフォーマンス。ここで、前述のジェリコローブローのように、フェイクを上塗りした。
 ところが、どうだろう。ホーガンとロックは一緒に花道を引き揚げる。最後に、ホーガンはロックの手を取り、上にあげる。「勝者は彼だ」という意味か、「プロレス界の象徴は彼だ」という意味か。
 その時のロックの表情。嬉しくて、それでいて淋しくて、戸惑う、うつろな目。上塗りしたフェイクを置いていき、リアルのまま。あそこにいたのは「ザ・ロック」ではなく、「ドゥエイン・ジョンソン」なのだ。
 フェイクで上塗りする事ができず終わってしまった。しかも、相手はあのホーガンだ。到達してしまった、達成してしまった、と思うのも当然かもしれん。あの瞬間を味わったものが、あとは何を求めろというんだ。
 と、少なくとも俺にはそう見えた。だからこそ、そこを詳しく掘り下げたドキュメンタリーが見たい。
 このまま考えていくと「WWE論」や「WWFWWEの違い」に突き進みそうで、手に負えないのでとりあえず今はやめる。
 何が言いたいんだかわからん、無駄に長い感想になってしまったが、戯言としてさらに下に続きます。

WWE ザ・ロック [DVD]

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