不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

逆さの国旗


 告発のとき鑑賞。監督・脚本・製作・原案、ポール・ハギス。出演、トミー・リー・ジョーンズシャーリーズ・セロンスーザン・サランドンジョナサン・タッカージェームズ・フランコジェイソン・パトリックフランシス・フィッシャー、ティム・マッグロウ。
 退役軍人のハンク・ディアフィールドのもとへ、イラクから帰還してくるはずの息子マイクが脱走したという知らせが来る。息子を探すために現地へ向かい、地元警察のサンダース刑事と捜索を開始する。そして、ハンクは自分の知らない息子の姿と、軍隊、国の本質が見えてきた。
 イラク派兵をテーマにしているので、ポリティカルな色合いが強い。しかし、ミステリーの要素も強く、全体に散りばめられたヒントからこちらの想像力を刺激させる。この映画で一番すばらしいのは、シリアスな内容でありながら、エンターテインメントとしても極上だという事だ。
 息子や派兵たちが戦地で何を見て、何をしたのか。その何かは壊れた携帯電話に残された、荒い画像データから少しずつ、しかしはっきりとではなく断片的にわかってくる。
 なんてことないエピソードや会話などの伏線が、残らずつながっていき、登場人物たちの絶望や、狂気に変わっていく。その繋がり方が、あまりにも劇的、もとい映画的で溜息をついてしまうほど。無理やり感もなく、「キレイにまとめたな」とも思わせないその脚本の完成度は、すばらしすぎる。
 ミステリーの要素を回収した後に待っていたものは、人間のモラル、戦場という場、我々人類の根底に流れる問題だ。が、ここでまた凄いのは、政治レベルのテーマと、人間ドラマのテーマが、完璧なバランスでそこに存在している事である。巧い、というレベルではないぞ。
 見終わってスッキリはしない。ここにある問題は今もある。だから重い。
 トミー・リー・ジョーンズの演技が良い。『ノーカントリー』と同じく、若者や自分の愛している国に思いをはせる老人である。顔に刻まれた深い皺と、正気と狂気を同時に持っている瞳が印象的。シャーリーズ・セロンの美人なのに美人に見えない女性警官もよい。脇もいい役者が固めている。
 正義や理想、戦争と狂気、若者と老人、家族と友情、愛、憎悪、理想、絶望。
 旧約聖書の一節と逆さの星条旗が、物語が進むにつれ深い意味を持つ。
「王様(大人)は、なぜダビデ(子供)をゴリアテと戦いに、エラの谷へ行かせたの?」
 勝敗は関係ない。善悪もない。あるのは、恐怖と勇気だけ。
 日本人の俺がここまで思うのなら、当事者であるアメリカ人はどう感じたのだろう。そもそも、アメリカ人が自らこの作品を描いて、しかも公開・上映した事は凄い。アメリカの民主主義、そしてエンターテインメント文化の奥深さを垣間見た。