不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

人が鬼となる


 ゲキ×シネ『朧の森に棲む鬼』鑑賞。作・中島かずき。演出・いのうえひでのり。出演、市川染五郎阿部サダヲ秋山菜津子真木よう子、高田聖子、粟根まこと小須田康人田山涼成、そして古田新太
 チケットは買ってあったが、なかなか時間が合わず、今日無理やり見に行った。振り回してしまった草太、スマン。
 3時間強という長い上映時間だったが、気にならなかった。むしろ終わった後、尻が痛いのに気付いたくらいだった。
 口先で人を騙し、操り、果ては一国の王にまでのし上がった男の物語。森の「鬼」から洗礼を受け、自分の野心のために、友も、愛も、憎しみすらも利用していく。と、ここまで書いて気付くだろう。そう、『マクベス』が下地になっているのである。
 しかし、あくまで下地であって、かなりアレンジが加わっており、一つの新作として成り立っているからすばらしい。
 主人公ライ*1の“騙し”は徐々にエスカレートしていく。小悪党から鬼へ。因果応報で、悪者は最後は成敗されるわけだが、決して物語を予定調和にさせず、序盤・中盤の流れを見事に捉えたクライマックスで一気に加速。予想を裏切らなくても、期待も裏切らない。
 ライがどうやって誰を陥れていくのか。またどうやってライを殺すのか。さながら探偵小説のような謎解きであり、細部まで神経が行き届いた仕掛けが楽しい。そこに人間の欲、業の深さ、憎しみ、嘘、正義といったテーマが絡み合わさり、一級のエンターテインメントに仕上がっていく。お見事。
 役者陣もよかった。中でも一癖二癖ある阿部サダヲ古田新太は相変わらずコミカル、シリアス、両極面でいい演技をする。
 主人公の市川染五郎は、序盤こそ台詞回しに不安を覚えたが、中盤からグッとよくなり、終盤、鬼となった姿は素晴らしかった。最後の立ち回りと見得は、さすがの迫力。
 今まで見たゲキ×シネの中で、一番よかった。大満足。

*1:当然、「嘘」からついた名前だろう。