不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

人生の全てがここにある

 いいミュージカルの感想を書く時、「タモリ」という言葉を使う人は多いと思う。勿論、「タモさん」の「タモリ」である。
 タモリがミュージカル嫌いである事は(何故か)周知の事実。よく「笑っていいとも!」のテレホンショッキングにミュージカルの宣伝で出演したタレントが「タモリさんでも楽しめます!」と言っている光景を見かける。三谷幸喜も『オケピ!』を見に来てくれ、と言っていた記憶がある。果たしてタモリが舞台を見に行ったのかどうかはわからない。*1
 だから、感想や劇評を書く時に「タモリ」は一つの基準であり、「タモリでも楽しめる」という表現はよく使われる。実際、このミュージカルのパンフレットでも(本作ではなく『キレイ』に対してだが)豊崎由美が《タモリも観たらよかったのにー》と書いている。*2
 こんだけ前振りして書くのもなんだが、『キャバレー』はタモさんも絶対に楽しめるミュージカルだ。

 ナチス台頭前夜のベルリン、キャバレー「キット・カット・クラブ」を中心に、怪しいMC、花形歌姫、アメリカ人作家、アパートの管理人、八百屋、娼婦たちが絡み合う。
 夢や希望や恋、バラ色に染まるキャバレー。
 そこに、不吉な靴音が近づいてくる。
 物語には、人生の苦しみがつめこまれている。しかし暗さはなく、明るい。明るいが、だからこそ悲哀が見える。バラ色のキャバレー、ヤニ色のアパート。
 歌姫サリーは言う。
《アタシの現実と、アナタの現実は違うのよ!》

 人生はキャバレー
 つかの間のキャバレー
 夢のキャバレー

 安っぽい言葉、安っぽいキャバレー。だから美しい。


 何だこのどっちらけな感想……。いいものに限ってうまく書けない。力不足。とにかく良かった。
 カーテンコールで拍手が鳴り止まなかった。そうしたら、中央の出口からジャージを着た毛深いオッサンが乱入してきた。松尾スズキだ! 最後にいいとこ持って行きやがった! スタンディングオベーション

*1:「行ったけど面白かった」とコメントしていた記憶もうっすらあるが、何の芝居かは思い出せない。

*2:余談だが、この豊崎由美のテキストは、すっごくつまらない。舞台を見ず、台本だけで書いたからだろうか。