不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

あの娘にキスを、キミにロックンロールを

 音楽・舞踏・文学の「時間の芸術」、建築・絵画・彫刻の「空間の芸術」、そして映画はこれら6つ全てを含んだ「第7芸術という総合芸術である」と言われている(総合だから一番優れているわけではない、念のため)。一方、(記憶があやふやだが)確か鴻上尚史氏が「ゲームは新たな芸術(文化)である」と書いた事があって、その二つの芸術がこううまく融合するものかと結構感心した。
 スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団を見た。監督・脚本・製作、エドガー・ライト。出演、マイケル・セラメアリー・エリザベス・ウィンステッド。原作はブライアン・リー・オマリー。

 大筋は単純なボーイ・ミーツ・ガールものだが、「一目ぼれした彼女と付き合うために、彼女の元カレ(正確には元恋人)7人と戦わなければならない」という設定からして無理やりで、冷静に振り返れば結構なアラはあるのだが散りばめられた大小問わずネタの数々がドミノ倒しの如く押し寄せて来て、気にせずゲラゲラ笑いながら見る事ができた。
 見るまで勘違いしていたのだが、主人公スコット・ピルグリムマイケル・セラ)がゲーム大好き青年で、オタク的知識をバラまきながらゲーム演出が展開していくのではなく(ゲーム好きではある)、スコットくん自身がゲームのキャラであり、ゲームを映画のネタで扱うのではなく映画世界そのものがゲーム的世界なのである。だから全編ゲーム愛に満ち溢れており、冒頭からしてUniversalのロゴのいじくり方がファミコン直撃世代の心を見事にくすぐってくるのだった。
 個人的にはもう少しゲーム設定を丁寧に練った方がよかったし、既存のゲームのオマージュなども欲しかったが、あまりやりすぎてもテンポが崩れる上に主軸がぶれるので、この程度がいいバランスだったのかもしれない。ゲーム以外の小ネタも効いていて、菜食主義者やゲイネタ、さらにラスボスとのやり取りには笑った。
 マイケル・セラはじめ俳優はみな楽しそうに己の役柄を演じていて特に女の子は、ブーたれるドラマーも、歯切れのいい毒舌妹も、ある意味主役じゃねえかという女子高生も、所せましと暴れ回って見ていて楽しくなるんだけど、唯一ヒロインであるラモーナ(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)だけちょっと魅力が足りなかったなぁ。いや、彼女自身はかわいらしいとは思うのだが、スコットくんはじめ種々雑多な男どもが夢中になる(なった)ほどかと言われると、うーん……海外ではどういう反応なんでしょうかね。
 スコットくんはなかなかの駄目男で、途中までこいつ大丈夫かよと心配すらしたものだが、駄目男なりのトラウマや葛藤、感情の機微はきちんと描かれていたし、ちょっと都合よすぎないかねぇとこっそり思いつつも最後には自分で落とし前をつけているので、後味は爽やか。青年の苦悩やその解決をゲーム的なトンデモにはせずスコットくん一人に集約させた事で、破綻せずに映画を構築できていたし、観客はある種のシンパシーを覚えながらこの2Dドットの世界にずぶずぶと入りこめた。原作コミックも読んでみたいが、原作はイマイチらしい。絵柄が意外と好みなかわいらしさなのだが、うーむ。
 音楽のレベルがやたら高くて、誰がやってんのかと見た後で調べたらナイジェル・ゴドリッチでやがんの。さらにスコットが所属しているバンドSex Bob-ombも歌詞はろくでもないが音がよくて、手がけてんのがBECKというから驚き。さらにさらに音楽対決したカタヤナギツインズ(斎藤慶太、斎藤祥太)のはコーネリアスが担当で、つまり劇中でBECK vs コーネリアスが繰り広げられていたわけだから、ちょっとちょっと、だったらもうそこをメインにしちゃえばいいじゃないのよ、と思ってしまった。それにしてもツインズ、エピソードどころかセリフすら一個もないのは(言葉の問題だったのだろうが)、おざなりすぎだろうよ。
 ところで、上に載せた画像はポスターやサントラのジャケットになっているアートワークなのだが、とてもかっちょいい。ここでゲーム的なデザインにしない辺りが、センスのよさをビンビンに感じたね。こういう映画、ゲーム大国・日本でも作ったらいいのにと思うけど、無理かなぁ……。