不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

「いろいろある」

 別部署のある人が本日をもって会社を辞めた、人の出入りが多い会社なのでそれ自体は珍しくないのだが、その人が次期社長に内定していたから辞めるのは驚きだった。会社は将来設計を大きく変更しなければならないので、今後混乱が予想される、俺はこの会社に(どの会社でも)ずっといる事はないだろうと漠然と思っているので会社の行く末に関心がないけれど、それがいいか悪いかは知らない。

 それから一ヶ月後くらいに、その人とたまたま帰るタイミングが同じになり、駅までの数分間一緒に歩いて話した。二人で歩く事も話す事も初めてに近かった。

「僕、辞めるんですよ」
「聞いてます。次は決まっているんですか、どちらへ?」
「ええ、まぁ、決まってはいます」

 具体名は避けた。別に構わない。少しの沈黙の後、

「まぁいろいろあったんですよ」
「そう、ですね、いろいろありますよね、人生」
「ありますね」

 それから別の話題になり、駅に着いたら「お疲れ様でした」と言って別れた。この「いろいろある」をどちらから言ったのかは、曖昧だ。彼からだった気がするが、俺から言った気もする、どちらでもいい事なのだが。その後、辞めるまでの一ヶ月の間に辞める理由が噂で聞こえてきた。おそらく真実であろう、だが俺は彼の言う「いろいろあった」だけでいい、彼の発した言葉が一番説得力がある。

 今日の最後の挨拶も「お疲れ様でした」だった。何に疲れたのやら、疲れていない時なんてこの後あるのだろうか。彼と二人で歩いて話す事は、たぶんもうない。