不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

続・現代料理を喰った

 昨夜食べたINUAの料理の感想を逐一書いていってもよかったのだが、全く何も知らないまま出てきた皿を見て「なんだこれは?」と思い、説明を聞いてもやっぱり「なんだそれは」と思い、食べてみたら「うん、わからんではないけど、わからないけど、うまいはうまい」と思う奇妙な食事体験をしていただきたいので、やはりここでは詳しくは書かない、いわゆるネタバレ回避というやつである。

 だが、仮に書いたとしても伝わるだろうか。何個かだけ例をあげよう。「鮟肝テリーヌ、炭火焼きインゲン、ブナの実」という前菜が出た、あなたはどんな外見を想像するだろう、おそらく多くの人が同じようなものを思い浮かべると思う、しかし出てきたのは紐状の鮟肝が直方体の形にデザインされ、その上に焼かれたインゲン、下にブナの実があるもので、「すぐ溶けるのでお早目にどうぞ」と急かされるので慌てて食べたら、サクッとした食感と共にすぐさま溶けて鮟肝の味と香りがふわっと口の中に広がる……頑張って書いてみたが、伝わっていますか。もっとも説明が困難なのは「プラムレザーとフレッシュなアロマティックフラワー」だ、何せ目の前に出てきたのは小さな額縁である。プラムレザーとは、プラムの固めの薄いゼリー、とでも言えばいいのか、その上に花などが散りばめられており、手で摘んだりちぎったりしながら食べた、食べ終わって「何を食べたんだろう」と思った。

 食後、キッチンツアーもあったので参加。ガスはなし、火を通すのは炭火かIHを使う。『二つ星の料理人』など最近の料理映画を見ていると「フライパンを使うのは時代遅れ」といったセリフが出てくるけれど、確かにフライパンを振るような事はしていなかった。ノーマのドキュメンタリーの感想で書いたが、料理というより実験で、最低限の技術は必要だろうが、もっといるのは発想力。案内してくれた人も「要はどの素材をどう調理して、どれと組み合わせるかという事なんです」、つまり何千万とあるであろう組み合わせをひたすら追求していくのだ。気が遠くなる。一体どういう発想をしたらこのような料理にたどり着くのか、どれだけ試作を繰り返したのか。働いている人はみんな楽しそう。誰がどうという担当はなく、全員料理の盛り合わせができるようにしておく、という分担作業でテキパキやっていくところも現代的だ。そして「ここではパイナップルを燻製にしています」「こっちではみかんを乾燥させています」と惜しみなく手の内を曝け出すところは、「真似できるものならしてみんしゃい」という矜恃なのだろうと感心すらした。

 一番うまかったのは「蒸し立てタラバガニ、白トリュフと味噌クリスプ」、これは字面通り、噛めば噛むほど味がよくなっていった。そういえば、デザートにはアイスクリームに蜂蜜でつけた松ぼっくりが出てきた。松ぼっくりって食べられるんですね。ワカメのミルフィーユも食べた、ワカメってデザートになるんですね。