不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

「死ぬのを待っているんだよ」

 ずいぶん前に知り合った時から会うたびに老人はそう言っていた。酒は飲まないが煙草をやたら吸う人だ、家族とは離れて住んでいる、金はない、博打が強いそうだが実際どうなのかは知らない、糖尿病を患っていて自分でインシュリン注射をしている、健康に気を使っているようには見えない。老人には友人が何人もいたけれど、最近どんどん亡くなっている、先日も一人亡くなった、50年以上の付き合いがある人だった、「あいつの方が年下なのに、バカじゃないか。忙しすぎたんだよ、時間を無駄に使ったからだ」。口悪く言うが「亡くなったという電話が来た後、一晩中泣いちゃってさ。俺はこんなにあいつが好きだったのかと気づいたよ。俺の方が先に逝くはずだったんだけどな」。あなたはお元気そうですね、「元気じゃないよ、食事の量も減ったし。何が人生百年時代だ、そんなに生きたくないね」、でももうすぐ90歳じゃないですか、「明日どうなっているかもわからない、それが老人だよ。もう死ぬのを待っているだけだ」、今日も笑いながらそう言っていた。次に会うのはいつだろう、老人でなくとも、明日どうなっているかわからない。