木村俊介『変人 埴谷雄高の肖像』(文春文庫)。今年の読み初めは年末だったか年始だったか古本屋でひょいと買ったこれを、これまたひょいと何となく。埴谷雄高に特段の思い入れはなく、『死霊』はわけわからんと一巻で放り出し、『不合理故に吾信ず』はちらほら読んでかっこいいなと意味もわからず思っていた。本書は関係者27人に埴谷雄高について話を聞いていて、それによって語り手自身についても見えてくるスタイルになっており、有名な人だけでなく無名な人も出てくるのがおもしろかった。中でも小島信夫が不定形なものを明確にせずに不定形なままにしておきたい、話はあくまでその時の話であってこうして原稿としてかっちりまとめられてしまったものは違うのではないか、といういかにも小島信夫な語りっぷりで、埴谷雄高より小島信夫の作品を読みたくなってしまった。
矢野誠一『志ん生のいる風景』(河出文庫)。『いだてん』を見て、たけしよりも森山未來の志ん生がよかったもので志ん生が頭の片隅にいるタイミングにこの文庫本が出た、河出うまいね。早速読んだが、志ん生の生き様だけでなく、その藝、たとえば落語においての「うまい」とは何かという部分にも踏み込んでいて、おもしろかった。結構古い本なのだな。本書でよく引用されている『志ん生一代』を早速図書館で借りてきたが、だったらもっと落語をもっと聞かないといかん。