不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

ベルトを巻いたぶきっちょ野郎

 棚橋弘至vs中西学を見た。中西、6度目のIWGP挑戦。例のインフルエンザの影響で二転三転、「棚」からぼた餅で決定した試合。
 ちょっとだらだらと思うところを書かせていただきます。
 言っちゃあなんだが、それほど手に汗握る試合ではない。棚橋はなかなかキレがよく、王者っぽくなっていた。むちゃくちゃな中西のリズムに間を崩されてうろたえていたけれど。一方、中西は相変わらず体が堅くて、どうしようもなくぶきっちょ丸出しのファイトを繰り広げている。フィニッシュのジャーマンだって、きったないもんだ。高山とジャーマン封印マッチをして負けたやん、という突っ込みだってしたくなる。
 まぁだからといって、これらは文句ではない。逆だ。これこそが中西学というレスラーなのだ。ぶきっちょで、空回りで、へったくそで、まっすぐで、ごつくて、タフで、笑えて、愛くるしくて、トンチキな発言と行動で人をずっこけさせるレスラーなのである。
 俺が中西を好きになったのは、たしか小島とタッグを組んだ辺りからだった。その辺から第三世代が上に食い込み始めたのだが、ただ一人乗り遅れたのが中西だった。IWGPタッグ王者になっても、ピンではパッとしなかったのだ。だけど、俺はあの無骨な感じと、黒パンツ黒シューズで髪の毛わしゃわしゃの恰好が好きだった。必殺技がアルゼンチンバックブリーカーだけというのも、「オマエ、大丈夫か」とハラハラさせた。
 99年のG1で優勝した時はそりゃあうれしかった。なんせ、無印・大穴の男が橋本真也蝶野正洋*1、そして大本命の武藤敬司闘魂三銃士を破って優勝したんだから。また、翌年のG1の佐々木健介との戦いもガッツンガッツン汗飛び散るもので、キャッキャと見ていたもんだ。そういえば、この年は「朝までプロレス」とかいって5〜6時間ぶっ通しで放送していたな、テレ朝。隔世の感あり。
 だけど、いちばん乗っている時期にIWGPを取れなくて、そのあたりから暗雲がこめてきた。K-1に挑戦するわ、カール・ゴッチに会って一日で「ジャーマンを継承された」と言うわ、タクシーに乗るわ、「小細工はいらない」と言うわりには微妙な技を開発しまくったりするわ(なんだよ、マナバウアーって)、野人から海賊→ソルジャーへとギミックチェンジをするわ、ナカニシランドを開園するわ……その他いろいろと。
 第三世代でただ一人IWGPベルトを巻けず、後輩にも追い抜かれて、気付けば「噛ませ犬」役に近い存在になってしまった。それでも存在感はたっぷりあったし、ファンには愛されていた。観客に苦笑・失笑もされたが、度肝を抜く時もたくさんあった。「さんまのからくりテレビ」などバラエティ番組にも結構出て人気者になった、かどうかはよくわからん。
 ともかく、ナンバーワンじゃなくてもオンリーワンなのは確かだった。プロレスラーにとってオンリーワンとなるのは重要な事で、キャラが立たないとどうにもならん。立たずにオンリーワンになる小橋みたいなのもいるけど。
 でっかい声で見当違いの事を言い、「まぁオメェはそれでいいや」とアントニオ猪木に突き放されて、ファンは苦笑しつつも「まぁ中西はそれでいいんだよ」と思いつつあった。
 しかし、心の奥底ではこう叫んでいた。
「それでいいわけねぇだろ! このクソたわけが!」
 愛される中西も見たいが、それ以上に見たいのだ、中西がベルトを巻いている姿を。少なくとも、俺はそう思っていた。中西自身、これでいいわけないだろうと思っていただろう。だからぶきっちょなりに試行錯誤をし、空回りをして、結果がついてこず、悩みまくったはずだ。それでも、自分はプロレスを、自分なりにやるしかない。そう信じてやってきた。頑丈な体をフルに使って、ほとんど欠場する事なくリングに上り続けた。いつかてっぺんに行くんだと胸に秘めながら。
 たぶん、多くの人がそう思っていたのだろう。終盤、アイアンクローからのたたみかけで巻き起こった大歓声。スリーカウントを取った瞬間の大喝采。ベルトを巻いて、インタビュー中にも鳴り止まない中西コール。各プロレスブログでは驚きと共に、妙な高揚感でいっぱいになっていた。
 これが中西なんだ、これがプロレスなんだ。
 かつて「問題(Problem)」に「耐える(Put up)」ことでその「願いが叶う(Possible)」ことは「約束される(Promise)」というP4メッセージを突然発信し、指がつりそうな手のポーズを作って失笑されたが、中西はまさにその通りのことをやってのけたのである。
 涙を流しながら、マイクを握って言葉を搾り出す姿に感動した。似合ってるじゃないか、ベルト。堂々としてるじゃないか。
 この先どうなるか、そんな事は知らん。三日天下で終わるかもしれん。だけど妄想はやたらと広がる。はっきり言って、誰とやる事になってもワクワクするだろう。こんな王者は久し振りだ。次の棚橋とのリターンマッチも頼むぜ、おい。
 とりあえず、カシンつれてこい、カシン。

中西学 P-4M [DVD]

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*1:蝶野を倒したのは次の年かも。記憶が曖昧。