不発連合式バックドロップ

日記と余談です。

残ったのは痛みだけ

 田村潔司vs桜庭和志が決定してから、一切の情報を耳に入れなかった。テレビ、雑誌、ネットで出てきた様々な言葉を、俺は知らない。田村が、桜庭が、そして前田日明が何を語ったのか、気にならないと言えば嘘になるが、俺は聞きたくなかった。
 田村vs桜庭というカードは、世間的にどれくらいのカードだったのか。桜庭はともかく、田村なんていやらしい試合をする選手としか見ていない人が多いのではないだろうか。
 俺にとってこの二人の名前を聞けば、Uインターのあの3試合を思い出し、あれが一つの理想形なのかもしれんと考えていた(リアルタイムではないにせよ)。そこから時間が過ぎ、油ののりきった二人が再び出会う、という「物語」を夢見ていた。仮にPRIDEでこのカードが成立していたとしたら、全く違う空気になっていたはずだ。
 だが、今や全く違う場であり、また違う状況に陥ってしまっていた。
 もはや、この二人に、何を背負わせればいいというのだろう。
 しかし、周りはそうはいかない。なんとしてでも、物語を作り上げようとするはずだ。仕方ないだろう。だけど俺は見たくない。だから、情報を入れたくなかった。
 この二人がリング上で、青コーナーと赤コーナーから顔を突き合わす光景に、心震えるのは、正直プロレス者、プオタしかいない。そのプロレス者でも、微妙な気持ちになってしまう。それが大みそかの格闘技イベントのメインという違和感。
 なんとか違和感を消して見た試合内容について、言う事は何もないし、語るべき言葉もない。ただただ、試合とは関係のない緊張感と、それでも決定的な何かは起こらないだろうという妙な確信だけがあり、胸が痛くなってきた。
 この試合を一言でいうなら「会話」かもしれない。「表現」でもいい。結局、田村も桜庭も、試合後に握手をしながら言葉を交わしたかっただけかもしれない。その光景すらも、俺には違和感を覚える事しかできなかった。試合中、ふとした瞬間、田村も桜庭も「俺達、何でこんな事をやってんだっけ?」と思っていたようにしか見えなかった。極めきれず、攻めきれず、守ることもできず。
 もう見たくない。だけど、考えざるを得ない。この試合は何だったのか。
 俺は、判定の結果が出た後、「WINNER 田村潔司」のテロップの下に小さく「プロレス」とあったのを見過ごす事はできなかった。
 おい、どういう意味で「プロレス」って使ったんだ? 誰か答えてくれ。